衆議院総選挙公約比較-15の争点-シリーズ
今回は【アベノミクス】です!
アベノミクスの背景
アベノミクスが導入された背景には、「失われた20年」と言われる、長期停滞経済への危機意識がありました。
デフレという物価が低迷し経済が冷え込む状況下で、デフレスパイラルという負の連鎖からぬけられなくなっていたのです。
物価が下落するデフレ状態に陥る→企業の業績が伸びない→賃金が伸びない→国民が消費をしない→物価が下落する→・・・
という連鎖です。(下図参照)
加えて、バブル崩壊後、経済成長率が鈍化し一時はマイナスに転じました。
そんな中、2012年に安倍晋三が政権を奪い返し、アベノミクスが始まりました。
アベノミクスとは
・デフレ脱却と共に富の拡大を目指す、安倍政権の看板とも言える経済政策です。
・2012年「3本の矢」を掲げ、2015年以降「新・3本の矢」を掲げています。
なお、「新・3本の矢」のうち、第二、第三の矢については、社会保障の充実から経済成長をという施策ですが、社会保障の側面が強いです。
そのため、今回はより中核的な経済政策として捉えられる「3本の矢」とその発展形としての「新・3本の矢」第一の矢を見ていきます。
それではアベノミクスの内容に入ります。
2012年-「3本の矢」とは
▼「3本の矢」第1の矢 大胆な金融政策
世の中に出回るお金(円)を増やすことによって、物価を上昇させてデフレを脱却し、経済を活性化させようという政策です。
●具体的には?
2%の物価安定目標を実現すべく、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度に誘導する大胆な金融緩和を行っています。
▼「3本の矢」第2の矢 機動的な財政政策
デフレ脱却をよりスムーズに実現するため、巨額の税金を使って、仕事を沢山生み出しています。持続的成長に貢献する分野に重点を置き、成長戦略へ橋渡しするという方針です。
●具体的には?
・復興、防災やリニア建設などの国土強靭化のための公共事業もこれに含まれます。
・2013年初めに20兆円の緊急経済対策と大型年次予算を、2013年秋には翌年に控えた消費税導入後の消費落ち込みを支えるために5兆円、また2015年度には96兆円、2016年には96.7兆円の予算、さらに2015年末に打ち出した「一億総活躍」戦略を支えるために、3.3兆円の補正予算を組み、2017年にはさらに史上最大の97兆4547億円の予算を組むなど、積極的な財政政策を進めています。
▼「3本の矢」第3の矢 民間投資を喚起する成長戦略
民間需要を持続的に生み出し、経済を力強い成長軌道に乗せていきます。投資によって生産性を高め、雇用や報酬という果実を広く国民生活に浸透させていくことが目指されています。
具体的なものは、後でご紹介する今後の経済政策の表をご覧ください。
そしてこの3本の矢をパワーアップ(踏襲)したのが、「新・3本の矢」です。
2015年ー「新・3本の矢」
・名目GDP500兆円を戦後最大の600兆円に
・中身はほぼ「3本の矢」と変わらず、これを踏襲しています。
以上がアベノミクスの簡単なご紹介でした。次にそのアベノミクスについての各立場と、その根拠としての指標を整理します。
アベノミクスへの評価
各政党の立場は大きく4つに分かれます。
多くの点で評価が分かれていますが、その背景には重視する指標の違いがあります。
1. GDP 2. 雇用国民生活 3. 企業・為替 4.成長戦略 の順に、同じフィールドでどのような意見対立が行われているのかを紹介していきます。
GDPについての評価
▼推進派(自民、公明)
ー名目GDP過去最高50兆円増加 493 兆円(2012 年 10-12 月期)➡ 543 兆円(2017 年 4-6 月期)
vs
▼反対派(民主、共産、社民)
一1人あたり名目GDPは、安倍政権のもとで20%程度減少している。
雇用/国民生活についての評価
▼推進派(自民、公明)/限定推進派(希望)
・就業者数185万人増加 6,271 万人(2012 年)→6,456 万人(2016 年)
・正社員有効求人倍率 初の1倍越え 0.5 倍(2012 年 2 月)→ 1.01 倍(2017 年 7 月)
・若者の就職内定率 過去最高 大学生 93.9%(2013 年 4 月)→ 97.6%(2017 年 4 月)
・雇用者(特に女性の就業者数)と若年失業率の改善
・過去最高の最低賃金
・家計の可処分所得2年連続で増加 292 兆円(2012 年)→ 295 兆円(2015 年)
vs
▼反対派(民主、共産、社民)/限定推進派(希望、維新)
・人口の多い団塊の世代がリタイアしていく時代に、働き手が一気に減って労働需要が増えるのは当然。
・実質賃金は、安倍政権のもとで年間10万円減った。
・家計消費は、安倍政権のもとで1世帯当たり年間22万円も落ち込んだ。
・国民の所得を削り、中間層を激減させ、格差を拡大し続けている。
企業、為替についての評価
▼推進派(自民、公明) /限定推進派(希望)
・日経平均 2012年 10,395.18円→2017年10/16現在 21,255.56円
・為替 2012年 1ドル70円台の円高→2017年10/16現在 1ドル111円
・企業収益過去最高26.5兆円増加 48.5 兆円(2012 年度)→75.0 兆円(2016 年度)
・中小企業の経常利益増加
vs
▼反対派(民主、共産、社民)
アベノミクスは大企業や富裕層を優遇して経済成長を目指すものである。
成長戦略についての評価
▼推進派(自民、公明)
・規制改革のスピードは決して遅くない。製薬の分野でもトップ。電力・ガスの自由化、農業特区も作った。農協改革も成し遂げた。
vs
▼限定推進派(希望、維新)
・民間活力を引き出す規制改革が不十分
以上、4つの角度からのアベノミクスへの評価ついて、党ごとにまとめたのが以下の表です。
政党名 | 評価 | 理由 |
自民党 | ◎ | ・名目GDP過去最高50兆円増加 ・就業者数185万人増加 ・正社員有効求人倍率 初の1倍越え ・若者の就職内定率 過去最高 ・企業収益過去最高26.5兆円増加 ・家計の可処分所得2年連続で増加 ・外国人旅行者数5年で約3倍 |
希望の党 | △ | ・アベノミクスによる株高・円安・失業率の低下は認める ・しかし、一般国民への好景気の実感はない ・民間活力を引き出す規制改革が不十分 |
公明党 | ◎ | ・名目GDPと株価 ・雇用者(特に女性の就業者数)と若年失業率の改善 ・過去最高の最低賃金 ・正社員有効求人倍率1倍越え ・中小企業の経常利益増加 ・訪日外国人増加、消費効果も増加 |
日本共産党 | × | ・アベノミクスは格差を拡大し続けている |
日本維新の会 | △ | ・日本経済は停滞を続けている |
立憲民主党 | × | ・アベノミクスは成果が上がっておらず、国民の所得を削り、中間層を激減させた |
社民党 | × | ・アベノミクスは大企業や富裕層を優遇して経済成長を目指すものである |
日本のこころ | ー | ー |
幸福実現党 | × | ・景気回復はままならず ・国の税収も7年ぶりに前年度比マイナスを記録 ・デフレ脱却も見通せていない ・日本経済は長らく低迷から抜け出せずにいる |
今後の経済政策
ここでは、概観だけを簡単にご紹介することとします。
▼アベノミクス推進派(自民・公明)
アベノミクスを引き続き推し進める一方で、成長戦略に比重を置いていくと主張しています。
▼アベノミクス限定推進派(希望・維新)
金融政策についてはアベノミクスをある程度引き継ぐとしながらも、財政政策(特に公共事業)については見直しをすると主張しています。
また、推進派と同じく成長戦略を重視する姿勢です。
▼アベノミクス反対派(共産・民主・社民)
アベノミクス全てを抜本的に見直し、上から/企業からではなく下から/家計からの経済政策に転換すると主張しています。
今後の経済政策についてまとめると以下の表のようになります。詳細は表内をご確認ください。
政党名 | 財政金融政策 | 成長戦略 | その他 |
自民党 | ・アベノミクスを力強く推進 | ・AIなど最先端技術のイノベーションで生産性革命を実現する ・国家戦略特区の残りの岩盤を打破し、様々なジャンルの挑戦を後押しする |
新・三本の矢 ・「600兆円規模経済の実現」 ・「希望出生率1.8」 ・「介護離職ゼロ」 |
希望の党 | ・日銀の大規模金融緩和は当面維持 ・円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索 |
・シェアリングエコノミーの推進など、規制緩和による潜在成長率の底上げ ・国家戦略特区の積極的活用 ・IT,IoT,FinTechなど先端分野におけるイノベーションと起業の促進 ・政府系金融機関及び官民ファンドは可及的速やかに廃止 ・インフラ整備の徹底的な見直し |
ー |
公明党 | ・賃金・可処分所得の引き上げや人材育成への投資の拡大を促す金融・財政政策を引き続き推進する | ・2020年度までにIoT,AI,ビッグデータなど重点分野の研究開発投資の対GDP比4%以上を目指す ・「社会のベース」の生産性やICT導入などによる全産業の生産性を抜本的に向上させる「生産性革命」を強力に推進する ・企業の内部留保を「見える化」する方策を検討する |
・機動的かつ大胆な経済政策 |
日本共産党 | ー | ー | ・地域経済の再生――大都市と地方、大企業と中小企業の格差を是正する |
日本維新の会 | ・「財政責任法」を制定し、財政運営の基本方針を定める ・国、地方の財政制度に発生主義会計と複式簿記を導入する |
・公共工事の拡大ではなく、日本の競争力を高める徹底した競争政策を実施で、GDPによる財政再建 ・新規参入規制の撤廃、規制緩和 |
ー |
立憲民主党 | ー | ー | ー |
社民党 | ー | ー | ・家計を温かくする経済政策 ・トリクルダウンからボトムアップへ |
日本のこころ | ・異次元の財政政策 ・投資効果の高い公共事業の拡大 |
・経済成長を阻害してきた岩盤規制を打破する | ・2030年までに名目GDP750兆円 |
幸福実現党 | ・国家ビジョンに立脚した公共投資などの実施 ・リニア新幹線、航空交通網の整備を進め、「交通革命」を起こすし、積極的インフラ投資によって経済成長を確かなものとする |
・徹底的な規制緩和で民間の自由を拡大 ・大胆な規制緩和により、国民生活への政府関与を大幅に縮小し、民間の自由を拡大する |
・高い経済成長を達成し、所得倍増 |
まとめ
以上が、アベノミクス・経済政策の解説でした。
経済を測るための指標は GDP/物価/平均賃金などなど多く乱立しています。どれか1つの指標しか知らないと1つの面しか見ることができません。
各政党がどのような指標によって、経済を語っているのかを見れば、経済への考え方の違いが見えてくるはずです。
ぜひそのような視点も持って、各党の政策を見てみてください。
経済は、私たちの生活にとって、社会保障と並んでもっとも身近な分野です。真剣に「数字」と、「経済政策の全体像」と向き合う機会をぜひともとってみてください。
参考資料
首相官邸 アベノミクス「3本の矢」
島田晴雄 アベノミクス:第二の矢と財政再建
内閣府 安倍内閣の経済財政政策
この記事は全党の公約を参考に執筆しました。公約へのリンクはこちら